2011年 10月 06日
ルーブル美術館で一番大事なサインとは
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芸術の秋。美術館巡りにもいい季節になった。
ところで、世界のミュージアムの来館者数ランキングで一位はどこ?
といえばおそらくほとんどの読者が想像する通り、パリのルーブル美術館である。
元々城塞であったルーブル宮殿は1793年に美術館として公開された。それから延々と拡張され大美術館になっていくわけだが、ガラスのピラミッド型のエントランスホールを構える現在の姿になったのは1989年、ミッテラン大統領によって行われた大ルーブル改革の時である。フランス政府はいつの時代も美術に対する政策に重きを置き、フランスこそが最上の芸術の地と謳っているが、それもそのはず、文化的なプライドももちろんだが、芸術は多大な外貨を呼び寄せる。今やルーブル美術館は世界中から観光客が押し寄せる大きな観光資源でもあるのだ。
ところで、ルーブル美術館がこれほどまでにもてはやされる理由として、世界屈指の美術品が収蔵されているのはもちろんのこと、やはり名画「モナ・リザ」の存在が大きいだろう。イタリア生まれの名画『モナ・リザ』はなぜか母国ではなくパリに「居る」のである。ルネッサンスを代表する芸術家であり科学者でもあったレオナルド・ダ・ヴィンチが生み出した数々の作品のうち、最もポピュラーで、謎の微笑をたたえたモナ・リザこそ、時代や国を超えて人々を魅了し続ける存在だ。
ルーブルへ赴き、よもやモナ・リザを見ずして帰る者がいないように、年間850万人もの来館者全員がモナ・リザを拝んでいると言っていいだろう。想像するに、ルーブル美術館では案内係、チケットもぎり、守衛さん、果ては掃除のおばさんに至るまで、一日何回、何十回も同じことを尋ねられているに違いない。
「モナ・リザはどこですか?」と。
あまりに広いルーブル美術館では、多くの来館者はまずはモナ・リザという世紀の芸術品へまっしぐらだ。それを如実に語るのがこのサインである。モナ・リザの写真と共に彼女の居場所を示す大きな誘導サイン、これはルーブル美術館の本来のサイン計画からは外れたものであるが、実はこの館の中で一番重要で、一番利用頻度の高いサインであることは間違いない。そして、サインによってモナ・リザに誘導された来館者は次に、人気二番手のミロのヴィーナスへ会いに行く。だからルーブル美術館においては、この二美女の居場所さえ示しておけばほとんどの来館者の目的に事足りるというわけである。
以前、ロンドンのヴィクトリア&アルバートミュージアムの案内所で来館者から一番多く尋ねられることは何か、という話を聞いたことがある。私は即座に「トイレ!」と思ったのだがそうではなかった。答えは意外にも「カフェ(レストラン)はどこですか?」。
こうしてみると美術館とはまさに一大娯楽の場所である。小難しいサイン計画など振りかざす必要はないのかもしれない。
KEI
(NEOS128号より転載)
by kmd-design
| 2011-10-06 18:37
| 世界あっちこっち