2009年 10月 20日
ミリキタニの猫
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かねてより気になっていた映画『ミリキタニの猫』を見た。
ご存じない方のために少し説明をすると、これは猫の映画ではない。波乱に満ちたひとりの男性の人生を辿るドキュメンタリー映画である。
主人公はジミー・ツトム・ミリキタニ(三力谷勉)。1920年生まれの日系人である。彼は人生の終わりの時期にあってニューヨークの路上で絵を描くホームレスだった。
とある日、アメリカ人女性映像作家リンダ・ハッテンドーフは、街角で毎日猫の絵を描いているミリキタニに出会う。彼女は、互いに猫好きという共通点から彼の日常を記録することになるのだが、やがて彼の人生そのものを映像で追うことに。
そのきっかけは2001年の9.11テロ事件だ。この出来事をきっかけに路上生活ができなくなった彼は、ハッテンドーフの好意で彼女の家に移り住み、それからだんだん心を開き、二人の共同作業としてのドキュメントが生まれていく。
サクラメント生まれの広島育ちであるミリキタニは、広島時代に原爆の体験をし、10代後半でアメリカに渡ってからは日系人の強制収容所に入れられる。戦後解放されてからもずっと孤独な暮らしで、働けなくなった挙句の果てに路上生活者となる。自ら戦地に行った経験がないのにこれだけ戦争に翻弄された人もそうはいないだろう。それゆえ彼はアメリカという国を決して許しはしないし、世話になろうとも思わない。無知で方策のない部分ももちろんあるのだが、アーティストとしての誇りは人一倍高く、誰にも頼らず無心にエネルギッシュな絵を描き続ける。
人の人生が一度しかないものなら(そうなのだろうけれど)ミリキタニの人生はそれを端から端まで全て使い切ったような、まさにドラマチックな生き様である。それでいてこの老人には悲壮感やあきらめがない。そこがこの人の大きな救いだ。
映像を見ているとミリキタニの底知れぬパワーこそが、めぐりめぐって人を動かし今回の映像を生み出したように感じられる。おそらく人生最期におけるハッテンドーフ監督との出会いも、見えない大きな力(それが猫だったのだろうか?)が働いていたのだろう。
(『ミリキタニの猫』はDVD化されています)
KEI
by kmd-design
| 2009-10-20 13:27
| Book & Cinema