
先日、東海道新幹線に乗る前に東京駅構内でお弁当を買った。最近の駅ナカは食分野がとても充実していて、どの店の弁当を見てもおいしそうだ。ウロウロと一周しているとミシェランで有名なかの××山の文字が目に留まった。美しいロゴである。「津軽景色」と名のついたそれは、嬉しいことに値段もそこそ、もちろん弁当としては高いが、××山で食べることを考えれば、とてもお買い得と思えるのだ。持ち運ぶ形もコンパクトで、とりあえず今回はこれ、と決め、車内で昼の時間を楽しみにした。
ところで、私がそれまで東京駅のお弁当(駅弁と言うべきか)でひいきにしていたのは「じゃこめし」だった。「だった」とうらめしく過去形にしたのは、いつのまにか姿を消してもう食べることができないからである。「じゃこめし」は小田原のお弁当屋さんのもので、某著名料理人がプロデュースしている。小田原から東京駅へ持って来るタイムラグがあるためか、朝10時以降でないと買えず、私は「じゃこめし」を買うために新幹線の時間をずらすほどだった。(ウソです)
「じゃこめし」はご飯の上に山椒じゃこの佃煮がのっかり、おかずは、魚の唐揚げ白ごままぶし、インゲンの天ぷら、くるみの佃煮、ゆでた小さな里芋を松茸型に切ったもの、そしてゆで卵の醤油煮が半分、という取り揃えで、どうってことない食材だが一品一品どれもしっかりした味付けは、弁当ということをよく考えて作られている。質実剛健でシンプルなところが好きだった。だのにどうしてなくなったてしまったのか、人気がなかったとは思いたくない。多分プロデュースの契約期限が切れてしまったとか、ロイヤリティーに対するイザコザとか(勝手に想像してます)、ひいてはJR東日本vsJR東海のテリトリー争いとか(考えすぎ)、消費者にはよくわからないところで打ち切りになったのだ。ファンにとって中止とは何とも迷惑な話である。
さて、目の前の「津軽景色」、東海道を西へ下るのに津軽というのも全くそぐわないが、そんなことはおかまいなしに広げてみると、これはかなりいけている。見た目にもじゅうぶん美しい。
添えられた品書きをそのままなぞってみると、
青森県産米まっしぐらを使った、鮭ハラス・三つ葉・醤油漬けイクラ・とろとろ半熟玉子の四色丼
ウニとカニが入った出し巻き玉子
昆布のやわらか煮込み
春菊と人参の白和え
青森県産長芋の梅津漬け
青森県産ごぼうの醤油漬け
青森県産ほっき貝の酢の物
いわしの蒲焼き山椒がけ
青森県産蒸した若鶏のつみれ柚子風味(以上、原文のまま)
と、まことにうやうやしい。
すべてたいらげた後、四色丼以外はちょっぴりずつなので、こんなにたいそうなものが入っていたのか、ほっき貝なんてどこにあったけ?などというのが正直な感想だが、どれもたいへんに美味であることは確かだった。
特に「とろとろ半熟玉子」はかなりグレードが高く、見かけはそんじょそこらのスクランブルエッグと変わらないのに、きわめて奥深い味付けで、しかもあえてとろとろと銘打ってあるだけに食感も優れている。鮭ハラスやイクラのように元の食材がおいしいものはおいしくて当然だが、ほんわり仕上げられた卵の状態や出しゃばらない味付けは、いったいどのように作っているのだろうかと思わせるものがあった。(だいぶ大げさですけどね)
若鶏のつみれも、若鶏のテリーヌ柚子風味、といったイメージに近い。こちらもただの鶏肉だがなかなかよくできている。一口大に刻まれた昆布も肉厚でおいしい。
これぞミシェラン、参りました!と言いたいところだけれど、実際につくっているのは青森のお弁当やさんである。(おいしければどこでもいいですけどね)
ついに「じゃこめし」に変わるヒット弁当見つけ~!と思ったけれど、
「待てよ、どうせ次に乗る時にはもうないのだろう」
はかない弁当の運命に、最初から期待はするものか、と、なんともさみしく思ったのだった。
KEI